第204回国会 参議院 法務委員会 第7号 令和3年4月13日 嘉田由紀子委員

会議録情報

令和三年四月十三日(火曜日)午前十時開会

委員長 山本 香苗君

法務大臣 上川 陽子君

法務省刑事局長 川原 隆司君

法務省民事局長 小出 邦夫君

委 員 嘉田 由紀子君

質疑

○嘉田由紀子君 

少し時間が迫っているんですけど、実は先回通告させていただきながらできなかった問題、振り返らせていただきたいと思います。

 いつもお伺いしております離婚後の子供の幸せづくりということで、子の連れ去りの問題でございますけれども、前回通告させていただいております法務大臣の御見解をお伺いしたいんですが、子の連れ去りを犯罪とするような刑法の改正、これはまず法務大臣、どうお考えでしょうか。

○国務大臣(上川陽子君) 現行法上の対処ということについて申し上げたいと存じますが、我が国の刑法におきましては、未成年者を略取し、又は誘拐をした者は三月以上七年以下の懲役に処すると、これは刑法二百二十四条でございます。また、所在外国に移送するという目的で人を略取し、又は誘拐した者は二年以上の有期懲役に処する、刑法二百二十六条ということで規定をされております。

 最高裁判例におきましては、親権者による行為であっても、他の親権者が監護養育している子をその生活環境から引き離して自己の現実的支配下に置く行為は今申し上げた略取誘拐罪の構成要件に該当し得るとされておりまして、行為者が親権者であることは行為の違法性が阻却されるか否かの判断におきまして考慮されるべき事情とされているところでございます。

 このように、一方の親による子の連れ去りということにつきましては現行法の下でも処罰の対象となり得るところでございますが、経緯や、またこの態様等を一切問わず一律に違法性が阻却されないようにすることにつきましては、その場合の保護法益をどのように考えるのか、また民事法上の親権、監護権との関係をどのように考えるか、また現行の未成年者略取誘拐罪等による処罰範囲を超えて処罰することとすることの相当性につきましてどのように考えるかなどの点も含めまして慎重な検討を要するものというふうに考えられるところでございます。

○嘉田由紀子君 御丁寧にありがとうございます。

 現行法の刑法二百二十四条、未成年者略取誘拐罪でも、今の連れ去りについては刑法の対象とすることができると理解をさせていただきました。

 その中で、少し入り込ませていただきますが、この刑法二百二十四条の未成年者略取誘拐罪の保護法益はどう考えられるでしょうか、政府参考人さん、お願いいたします。

○政府参考人(川原隆司君) お答えいたします。

 未成年者略取誘拐罪の保護法益につきましては、被拐取者、これはその誘拐されたり略取されたりする者ですが、被拐取者の自由とする見解、被拐取者に対する保護者の監護権とする見解、基本的には被拐取者の自由であるが監護権も保護法益であるとする見解など様々な考え方がございまして、一般に判例は最後の見解、すなわち基本的には被拐取者の自由であるが監護権も保護法益であるとする関係、見解を取っているとされているところでございます。

○嘉田由紀子君 繰り返させていただきますけれども、学説、通説幾つかあるけれども、基本的には被誘拐者の自由、安全、それから監護権も保護法益、つまり連れ去られた子供の自由や安全、そして、そのときに引き離された親の監護権というものも保護法益の対象になるという御理解、理解をさせていただきたいと思います。

 そういう中で、子の連れ去りに対する未成年者略取誘拐罪の適用範囲、それを先ほどいろいろな事例があるとおっしゃっておられたんですが、例えば離婚係争中とか別居中の夫婦、あるいは離婚、別居の話もない、もう日常的な、普通の日常の中で子供が平穏な中に連れ去られたり、あるいは連れ戻されたりした場合、こういうときでも未成年者略取誘拐罪に問われる可能性があると考えてよろしいでしょうか。

○政府参考人(川原隆司君) お答え申し上げます。

 犯罪の成否は捜査機関により収集された証拠に基づき個別に判断される事柄でございますので、お答えは差し控えさせていただきたいと存じます。

 あくまで一般論として申し上げれば、刑法二百二十四条は、未成年者を略取し又は誘拐した場合に成立するものとされております。そして、ここに言う誘拐とは、一般に欺罔又は誘惑を手段として人を保護されている状態から引き離して自己又は第三者の事実的支配の下に置くことをいうものと理解されているところでございます。

 なお、最高裁の判例におきましては、親権者による行為であっても刑法二百二十四条の構成要件に該当し得るとされており、行為者が親権者であることなどは行為の違法性が阻却されるか否かの判断において考慮されるべき事情とされているものと承知しております。

○嘉田由紀子君 ありがとうございます。

 ちょっとここはしつこく聞かせていただきますけれども、一方で、この子供を平穏に連れ去ったケースなどで、一方の親の監護権など法的利益が侵害されている場合でも、原則として刑事罰の対象にするとか、あるいは家庭内の紛争に対する国家の介入はできるだけ抑制するという、そういう意見も様々法曹界にもございます。

 家庭裁判所の紛争解決機能を充実させることのバランス、家庭内に、先ほど保護法益、子供の自由や安全あるいは監護者の監護権というものが侵されているような場合、どうやってこの刑法の家庭内への介入とそれから家庭の自立というところ、どうバランスを取られるでしょうか。お考えを聞かせていただけたら有り難いです。

○政府参考人(川原隆司君) お答えいたします。

 子をめぐる家庭内の紛争の解決という観点からは、一般に家庭裁判所の紛争解決機能が重要であると認識しているところでございますが、御指摘のその刑事罰の対象とすることと、家庭裁判所の紛争を解決する機能を充実させることのバランスという趣旨が必ずしも明確ではないように受け取れるところでございまして、一概にお答えすることは困難でございます。

 ただ、いずれにしましても、先ほど大臣から答弁がございましたように、一方の親による子の連れ去りにつきましては、現行法の下でも処罰の対象となり得るところであり、経緯や態様等を一切問わず一律に違法性が阻却されないようにするということについては慎重な検討を要するものと考えております。

○嘉田由紀子君 ありがとうございます。

 今日、刑事局長と民事局長さんがお二人おられて、まさにバランスを取っていただけるんだろうと思いますが。

 ただ、実際に、平穏な家族生活の中で突然子供が連れ去られ、そのとき置いてきぼりになるのは七、八割、八、九割がお父さん。最近は女性、お母さんも置いてきぼり食うことが多いんですけれども、いわゆる連れ去りと連れ去られというようなことの中で、多くの方が家庭裁判所のバランスある判断を当てにしているんですけど、ここが実態はなかなか期待どおりにならない。

 もちろん、今の単独親権の下ですとどっちかに決めなきゃいけないから、もう単独親権制度そのものが親子の分断、父母の分断を構造的に決めている、私はこのことが大変問題だと最初から申し上げているんですけれども。

 ただ、そういうところにあって、最後に法務大臣にお伺いしたいんですが、子の連れ去りによって子供や子を連れ去られた親の法的利益が侵害されることを防ぐために、家庭内の紛争解決に刑事司法、どこまで委ねることが、あるいは国家が介入することが適切とお考えでしょうか。法務大臣の御見解をお願いいたします。

○国務大臣(上川陽子君) 先ほど申し上げたとおりでございますが、一方の親による子の連れ去りにつきまして、経緯やまた態様等を一切問わず一律に違法性が阻却されないようにすることにつきましては、慎重な検討を要するものと考えております。

 刑法は法益保護のために用いられるところでございますが、一般に刑法の補充性や謙抑性といたしまして、法益保護の手段は刑罰だけではなく、刑罰という保護手段は法的制裁の中でも最も峻厳なものであり、避けることができるのであれば避けるべきものとの考え方があるものと承知をしているところでございます。

 もっとも、御質問いただきました家庭内の紛争解決に関しまして具体的に刑事司法がどの程度介入すべきかにつきましては、一概にお答えすることはなかなか困難であるというふうに考えております。

○嘉田由紀子君 ありがとうございます。

 またこの後、家庭裁判所の役割、あるいは様々な現場の皆さんの声を聞きながら、次回に続けさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

 これで終わらせていただきます。

親子引き離し問題会議録

現在日本で横行している親権独占を目的とした子どもの連れ去りや、その後の親子断絶強要の社会問題について、議会質問の議事録を保存、公開しています。 *2020.1月より開始、前年秋の臨時国会から少しづつUPしていきます。

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